消費税はどこまで上がるか? 全世代型社会保障の罠

政府が推進する全世代型社会保障の実現に向けて、先月20日、全世代型社会保障検討会議の初会合が開催されました。

全世代型社会保障とは、これまでの高齢者向けの寛大な給付を基本的には維持しつつ、これまでは手薄だった現役世代向けの給付を増やしていこうとするものです。

もちろん、現役世代が弱りつつあるなか、現役世代向けの給付を手厚くしていこうという狙いはよいのですが、問題は財源です。

言うまでもなく、社会保障の財源は保険料の他、消費税が充てられることになっています。

ただし、安倍総理は、社会保障財源としてのさらなる消費増税について、7月に「今後10年くらいは上げる必要がないと思う」と発言されていますので、同会議では消費税を引き上げずに、財源をひねり出さなければなりません。

しかし、団塊の世代が後期高齢者化する「2025年問題」、団塊ジュニアが年金受給世代になる「2040年問題」、引き続き後期高齢者化する「2050年問題」などにより、今後の社会保障にかかるコストは増え続け、政府試算によれば、2018年度の121兆円から、2025年度には141兆円に、2040年度には190兆円に達すると試算されています。

どう考えても、消費増税抜きに、社会保障の財源を賄うのは不可能でしょう。

ですから、本記事では、今後増え続ける社会保障費用をしっかり消費税で対応するならば、どこまで上げる必要があるのか試算してみました。

試算に用いたのは、少子化や高齢化の進行が財政・社会保障に与える影響を分析する際の定番モデルである世代重複(OLG)シミュレーションモデルです。詳しくは、下記をご参照ください。

シミュレーションの結果、2019年10%から上昇を続け、団塊ジュニア世代が年金を受け取り始める2040年は30%に達し、次第に上がり方は落ち着きますが、最終的には、消費税は55%になります。

図 上がり続ける消費税

社会保障目的税として消費税への一本足打法を続けつつ、全世代型社会保障を実現していくには、際限のない消費税の引き上げを覚悟しなければならないのです。

年金改革はすでに手遅れ ツケは若者に

今年6月、参院選を前に突如、老後の生活資金2000万円不足問題が表面化しました。年金に対する不信感が国民の間に瞬く間に広がりました。

しかし、実は永田町や霞ヶ関の間では、年金よりも、団塊の世代が後期高齢者になりはじめて医療財政がパンクする「2022年問題」こそ喫緊の課題だと考えられているのです。

年金に関しては、2004年の「100年安心プラン」で根本的な問題は解決済みで、あとは微修正で乗り切れるとの目算です。

この根拠は、マクロ経済スライドにあります。

マクロ経済スライドは、これから年金を受け取る新規裁定者だけではなく、すでに年金を受け取っている既裁定者の年金も一定のルールに基づいて自動的に減額していく仕組みです。

確かに、マクロ経済スライドは、財産権として保護されているはずの年金受給権を巧みに制限しているのですから、発動できれば若い世代の年金負担は軽減されますし、年金財政も安定するはずでした。

つまり、団塊の世代が年金受給を開始するまでに、マクロ経済スライドを確実に発動させ、年金財政を安定化させる予定だったのです。

しかし、実際にはマクロ経済スライドは、2004年に導入されていこう、2015年と2019年の2度しか発動されていません。そのため、「100年安心プラン」の想定より、現在の年金受給世代に過剰に年金が給付されています。

図1 過剰給付の実態

その結果、年金純債務は膨らみ続け、結局、若い世代にツケは先送りされ、世代間格差は拡大してしまっています。

図2 膨らみ続ける年金純債務

年金危機は、政治家や官僚が考えているのとは違って、過去の問題ではなく、いまそこにある明白な危機なのです。しかも、医療が、団塊の世代によってこれから直面する「2022年問題」とは異なり、年金は、すでに団塊の世代が受給を開始してしまっています。シルバー民主主義のもと、全世代型社会保障という名目でお茶を濁す理由です。つまり、年金の抜本的な改革は困難なのです。

筆者が、この度、講談社現代新書から上梓しました『年金「最終警告」』では、「100年安心プラン」「年金純債務」「世代間格差」「相続税」「基本年金」をキーワードに、「人生100年時代」に相応しい年金のあり方を提言しています。