年金改革はすでに手遅れ ツケは若者に

今年6月、参院選を前に突如、老後の生活資金2000万円不足問題が表面化しました。年金に対する不信感が国民の間に瞬く間に広がりました。

しかし、実は永田町や霞ヶ関の間では、年金よりも、団塊の世代が後期高齢者になりはじめて医療財政がパンクする「2022年問題」こそ喫緊の課題だと考えられているのです。

年金に関しては、2004年の「100年安心プラン」で根本的な問題は解決済みで、あとは微修正で乗り切れるとの目算です。

この根拠は、マクロ経済スライドにあります。

マクロ経済スライドは、これから年金を受け取る新規裁定者だけではなく、すでに年金を受け取っている既裁定者の年金も一定のルールに基づいて自動的に減額していく仕組みです。

確かに、マクロ経済スライドは、財産権として保護されているはずの年金受給権を巧みに制限しているのですから、発動できれば若い世代の年金負担は軽減されますし、年金財政も安定するはずでした。

つまり、団塊の世代が年金受給を開始するまでに、マクロ経済スライドを確実に発動させ、年金財政を安定化させる予定だったのです。

しかし、実際にはマクロ経済スライドは、2004年に導入されていこう、2015年と2019年の2度しか発動されていません。そのため、「100年安心プラン」の想定より、現在の年金受給世代に過剰に年金が給付されています。

図1 過剰給付の実態

その結果、年金純債務は膨らみ続け、結局、若い世代にツケは先送りされ、世代間格差は拡大してしまっています。

図2 膨らみ続ける年金純債務

年金危機は、政治家や官僚が考えているのとは違って、過去の問題ではなく、いまそこにある明白な危機なのです。しかも、医療が、団塊の世代によってこれから直面する「2022年問題」とは異なり、年金は、すでに団塊の世代が受給を開始してしまっています。シルバー民主主義のもと、全世代型社会保障という名目でお茶を濁す理由です。つまり、年金の抜本的な改革は困難なのです。

筆者が、この度、講談社現代新書から上梓しました『年金「最終警告」』では、「100年安心プラン」「年金純債務」「世代間格差」「相続税」「基本年金」をキーワードに、「人生100年時代」に相応しい年金のあり方を提言しています。