税方式による基本年金創設で国民皆年金の実現を!

1961年(昭和36年)に確立された国民皆年金は実質的に崩壊の寸前にあります。保険料を納めるべきはずの人の半分が保険料を納めなくてもよいことになっているのが、現在の国民皆年金の実態です。国民年金の空洞化は現在進行形の現実であり、就職氷河期世代が年金受給年齢に達すると、国民年金の空洞化は今後いっそう進行してしまうことになります。これは不都合な真実かもしれませんが、直視しなければならない現実でもあります。

そこで、わたしは、現行の社会保険方式による基礎年金部分を廃止して、65歳以上のすべての国民にナショナルミニマムとして一律月15万円(現在の生活保護額13万円程度よりやや多い金額に相当します)を支給する新たな税方式による基本年金の創設を提唱したいと思いいます。

現行の社会保険方式は、メンバーシップ制ですから、加入実績がなければ、給付は得られません。それに対して、税方式では、誰もが負担者でありますから、誰もが受給者となれるのです。基本年金は、基礎年金とは違って、税金を財源とします。
税方式の年金制度については、いろいろな批判もありますが、すでに、基礎年金の半分が税金で賄われている現実があるのですから、社会保険方式にこだわる理由は見当たりません。

基本年金の仕組みは非常にシンプルです。65歳以上のすべての国民に一律月15万円支給します。そして、その財源は税金で賄います。ただこれだけです。現在の社会保険方式のように、滞納者や未加入者から保険料徴収するための余計なコストは不要になります。

そもそも、税方式による年金の支給はわたしのオリジナルな提案ではありません。元々は、1977年(昭和52年)に社会保障制度審議会が当時の福田赳夫総理に提出した建議「皆年金下の新年金体系」で提案されているのです。

この建議は、国民皆年金が確立してから十数年しか経っていない当時すでに少子化、高齢化の進行で、国民皆年金の理念が空洞化しつつある現状を憂い、基本年金を再建策として提示しています。この建議は必読だと思います。

わが国で「国民皆年金」が唱えられてすでに久しいが、現実には、適用漏れのもの、短期加入者、その他いわゆる無年金者の数は著しく多く、また、制度の未成熟に伴う老齢福祉年金、五年年金、十年年金等の経過的便宜措置の適用を受けている多数の老齢者にとっては、「年金」はいわば名目的な給付にすぎず、これらの老齢者にとって生活の基本的支柱としての機能をつくしてはいない。

したがって、「基本年金」は単純かつ明確でなければならないし、年齢要件のみを基準として、全額国庫負担による一定額を全国民一律に給付、保障しようとするものである。 老齢者で無年金を歎ずるもののなきことがその願いである。

社会保障制度審議会建議「皆年金下の新年金体系」(昭和52年12月19日)

しかし、社会保険方式に拘り、税方式に徹底的に抵抗した当時の厚生省が、この基本年金構想を潰し、似て非なる基礎年金へと換骨奪胎してしまったのです。こうした過程については、西沢和彦先生の下記の書籍が詳しいです。

ただし、わたしの試算では、高齢化のピークである2043年には基本年金を実現した場合、72兆円もの財源が必要になります。

こうした財源をどのように捻出するか。わたしは、所得税、消費税、相続税の組み合わせで充分確保できると考えています。

この度、現代新書より出版した『年金「最終警告」』では、基本年金をいかに実現していくのか、詳しく議論しています。是非、ご高覧ください!

自然災害リスクに対処する社会保険の創設が求められる

台風19号による豪雨で、関東及び東北地方各地に甚大な被害が出ています。台風19号による被害に遭われた方々へは、謹んでお見舞い申し上げますとともに、一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。

近年多発する自然災害は、気象庁が発する「50年に一度の大雨」という特別警報すら陳腐化させる勢いです。

さて、台風19号が関東地方を直撃しそうだと言うことで、改めてハザードマップを眺めていましたら、わたしの家の近くは浸水予想区域には該当してないようでしたが、地元でも、地区によっては、大きな被害が予想されるところも多くあることが分かりました。

つまり、同じ自治体でも居住地によっては、被災リスクが異なると言うことです。不幸にも、いったん被災してしまうと生活の再建までに多大な時間がかかってしまうことは明らかでして、国や自治体の対応にも限界があるのも事実です。

全国の各基礎自治体で自然災害に対するハザードマップが提供されていることに鑑みますと、ハザードマップに示されるリスクの度合いに応じて、基礎自治体が保険料を強制的に徴収し、リスクが顕在化した方に対して給付を行う社会保険の創設を提案したいと思います。

自然災害(地震、水害、雪害等)というリスクに対処するための社会保険を創設することで、次のような効果が望めます。

  1. 被災者への迅速な支援の実現
  2. リスクに応じた保険料が徴収されるので、新たな居住地選択の際、その土地のリスクを把握可能
  3. 安全な土地への移住促進
  4. コンパクトな国土利用の実現

個人的には、自然災害リスクに対処する社会保険の創設で、安全な土地への移住を促進し、コンパクトな国土利用を実現させるのが一番の狙いです。

もっとも、安全な土地への移住促進には、社会保険よりも税の方が効果があるとも思われますが、それについてはまた別途議論したいと思います。

消費税はどこまで上がるか? 全世代型社会保障の罠

政府が推進する全世代型社会保障の実現に向けて、先月20日、全世代型社会保障検討会議の初会合が開催されました。

全世代型社会保障とは、これまでの高齢者向けの寛大な給付を基本的には維持しつつ、これまでは手薄だった現役世代向けの給付を増やしていこうとするものです。

もちろん、現役世代が弱りつつあるなか、現役世代向けの給付を手厚くしていこうという狙いはよいのですが、問題は財源です。

言うまでもなく、社会保障の財源は保険料の他、消費税が充てられることになっています。

ただし、安倍総理は、社会保障財源としてのさらなる消費増税について、7月に「今後10年くらいは上げる必要がないと思う」と発言されていますので、同会議では消費税を引き上げずに、財源をひねり出さなければなりません。

しかし、団塊の世代が後期高齢者化する「2025年問題」、団塊ジュニアが年金受給世代になる「2040年問題」、引き続き後期高齢者化する「2050年問題」などにより、今後の社会保障にかかるコストは増え続け、政府試算によれば、2018年度の121兆円から、2025年度には141兆円に、2040年度には190兆円に達すると試算されています。

どう考えても、消費増税抜きに、社会保障の財源を賄うのは不可能でしょう。

ですから、本記事では、今後増え続ける社会保障費用をしっかり消費税で対応するならば、どこまで上げる必要があるのか試算してみました。

試算に用いたのは、少子化や高齢化の進行が財政・社会保障に与える影響を分析する際の定番モデルである世代重複(OLG)シミュレーションモデルです。詳しくは、下記をご参照ください。

シミュレーションの結果、2019年10%から上昇を続け、団塊ジュニア世代が年金を受け取り始める2040年は30%に達し、次第に上がり方は落ち着きますが、最終的には、消費税は55%になります。

図 上がり続ける消費税

社会保障目的税として消費税への一本足打法を続けつつ、全世代型社会保障を実現していくには、際限のない消費税の引き上げを覚悟しなければならないのです。